ITとビジネスが直結し、テレワークも浸透した今、「ITに対する従業員の問い合わせ」へのスピードが社業を左右する状況だ。従業員から「遅い」「不親切」といった不満を持たれがちなIT部門は、どのような「仕組み」を持つべきか。
これまでの課題
労働人口の減少を受けて、IT部門の人材不足は年々深刻化している。一方で、ビジネスのデジタル化は急速に進み、ITシステムの安定運用など従来の業務に加え、収益に直接貢献する取り組みや、顧客体験/従業員体験を向上させる取り組みも求められている。IT部門の担当領域は広がるばかりという状況だ。
特に経営環境の変化が激しく、ITとビジネスが直結している現在、「ビジネスニーズにIT部門がいかに柔軟かつスピーディーに応えるか」が企業の競争力を左右する状況になっている。コロナ禍への対応も一例だろう。緊急事態宣言以降、テレワーク環境整備に数カ月間、忙殺されたというIT担当者は少なくないはずだ。
人手中心で場当たり的に対処するのではなく、「IT部門としてニーズに迅速に対応する仕組み」を持つことの重要性を、あらためて痛感した方も多かったのではないだろうか。
そんな中、突発的なIT対応を含め、少人数でもビジネスニーズに柔軟かつスピーディーに対応できる「仕組み」を整え、成果を挙げた企業がある。その仕組みとはどのようなものなのか。実践事例から、ニューノーマル(新常態)時代のIT部門の在り方を探る。
「グループ100社のビジネスニーズ」にどう迅速に応えるか
1967年、転勤者の自宅を貸与することで収益を上げる「リロケーションサービス」に取り組み、設立以来、堅調に事業を拡大してきたリログループ。現在はリロケーション事業を軸に、福利厚生事業、観光事業、海外戦略事業など、「企業の福利厚生を総合的にサポートする企業」として、業界で独自の地位を確立している。
借り上げ社宅管理、賃貸管理、海外赴任支援という3つのサービスを展開するリロケーションサービスをはじめ、福利厚生や観光、海外戦略など全事業を合わせるとグループ企業は約100社。連結売上高は3130億円、従業員数は4280人(いずれも2020年3月期)で、特にここ5年間で売上高は1.7倍超になるなど、創業50年を経てなおも成長を続けている。
事業規模が年々拡大する中、リログループが抱えた課題の一つが「ITサービスマネジメントの負荷増大」だ。リログループでは、グループITマネジメント室がグループ各社のPC機器やITシステムを横断的にサポートする体制を敷く。だが、グループ企業の中にはM&Aで統合した企業を中心に自前でシステムを運用する企業も多く、一元的な管理が年々難しくなっていた。リログループの取締役兼CIO(最高情報責任者)の河野豪氏はこう説明する。
「リログループのグループITマネジメント室は、各社が差別化して競合優位を作り出す業務システム以外のITサービスを提供しています。具体的には、PCやモバイル機器のキッティング、グループウェアや共有ファイルサーバ、eラーニングシステムの提供、各種申請の受け付けと進捗(しんちょく)管理など、業務範囲は多岐にわたります。そうした中でも、グループ従業員からのITサービス依頼申請の受け付けや管理を中心とするサービスデスク業務は、個社で申請のフォーマットやスタイルが異なるなど、手作業による対応が求められ、負担が年々増大していました」(河野氏)
こうした課題へ対応するために導入したのが、野村総合研究所(NRI)のシステム運用管理製品「SenjuFamily」をベースにしたクラウド型サービスデスクツール「mPLAT/SMP」だった。
導入効果
全社共通のサービスデスク基盤として「mPLAT/SMP」を採用
mPLAT/SMPの導入に当たり、リログループが抱えていた課題は大きく分けて3つあった。1つ目の課題は、業務や個社の事情に合わせた対応の難しさだ。実は、mPLAT/SMP導入以前にも同様の課題に基づき、サービスデスクツールを導入していたが、カスタマイズに大きな手間がかかるなど柔軟性に乏しかったという。グループITマネジメント室のIT企画サポートグループグループマネージャー、工藤留美子氏はこう説明する。
「以前は、画面とフローを分割して設計することができませんでした。つまり、何か新しい業務が追加されたり、グループ企業が増えたりするたびに、新たに画面を設計し、それに合わせてフローも作っていく必要がありました。少ない人的リソースで多岐にわたるITマネジメントを行わなければならない中で、1つの画面を作るのに1カ月かかることもあり、大きな負担になっていました」(工藤氏)
2つ目の課題は、運用の標準化が難しかったことだ。そもそもITサービスマネジメントツールを導入した目的の一つは、ITILベースで運用を標準化・効率化し、サービスの品質を高めることにあった。だが、実際には運用のための知見やノウハウを自社で蓄積する必要があったという。グループITマネジメント室IT企画サポートグループの増田瑞穂氏はこう説明する。
「社内にはITILに精通した人材が豊富にいるわけではありません。そこで、ツールを導入することで、ITILの知見やノウハウ、スキルを身に付けていくことを狙っていたのですが、実際にはツールを構築して終わりといった対応にとどまり、期待した効果が得られなかったのです」(増田氏)
3つ目の課題は、「働き方改革に資する社員サポート」が難しかったことだ。リログループでは、事業拡大とグループ従業員の増加を受け、従業員にストレスを感じさせないスピーディーで柔軟性の高いサービスの提供を実現しようとしていた。「システムに対して何か要望があるときに、申請から完了までのリードタイムが長くなると、IT部門ひいては会社への不満がたまりやすくなってしまいます。スピーディーに処理し、処理過程も公開されるなど、申請の進捗が分かるような仕組みが必要だと考えていました。管理者としては、膨大な承認作業も何とか削減したかったのです」(河野氏)
決め手は「IT部門と事業部門、双方にメリットがあったこと」
こうした課題を解消できること、すなわち「業務に合わせて簡単にカスタマイズできる」「ITILベースの運用を実現できる」「従業員やIT部門の働き方改革につながる」ことが新たなサービスデスクツール選定の基本要件となった。
その上で、より具体的な要件として、「新たな申請画面を“自分たちだけで”作成・更新できること」「申請や承認のワークフローを柔軟に作成できること」「申請内容に合わせて資産管理や構成管理が可能なこと」「一般ユーザーとIT部門など、権限に合わせて異なる操作画面を用意できること」「ユーザーの操作履歴などログを適切に残せること」など、十数種類の項目を設け、5つの製品を比較検討したという。その結果、全ての要件を満たしたのがNRIのmPLAT/SMPだった。
「中でも決め手となったのは、われわれが新たに画面を作ることが容易であることと、従業員が自分で出した申請の状況を把握できる点でした。申請の進捗が見える化されることで従業員からの問い合わせも少なくなりますし、満足度も向上します」(工藤氏)実際、サービスデスクツールの中には、IT部門の目線では便利に見えても、エンドユーザーにとっては不親切なものもある。その点では、河野氏による「業務目線での目利き」が役立ったという。河野氏はCIO就任以前、福利厚生代行サービスを展開するリロクラブで代表取締役社長を務めた経験があった。その経験を基に、「事業部門のエンドユーザーの観点で、真に使いやすいUIや機能を備えているかどうか」をチェックしたのだという。一方、増田氏は「ベンダーのサポートが充実していることも選定のポイントでした」と話す。
「NRIのエンジニアが、『ITILベースの運用をしたいならこうすればよい』といった具合に、具体的な施策とツールの使い方を提案してくれたのです。こうしたクラウドサービスは自社業務への適用が導入のポイントになるのですが、導入フェーズでもさまざまなシーンで助けられました。これほど安心感があって楽しい製品導入は経験したことがないほどです」(増田氏)
今後の展望
mPLAT/SMPでグループ全体のデジタル化とIT活用を推進
mPLAT/SMPは2019年11月から全社(一部会社を除く)に導入し、2020年5月に対象の会社を追加した。その効果は、折しも発生したコロナ禍への対応で十分に確認できたという。
「テレワークを実施するためのPCの持ち出し申請をmPLAT/SMPで構築したサービスデスクで行いました。申請数は1日に数百件に及びましたが、何のトラブルもなく、申請の受け付けから、PCの払い出し、必要なツールのライセンス購入などを一貫したフローで素早く実施できました」(工藤氏)
これまで確認できた導入効果は大きく分けて3つある。1つ目は、新規画面やワークフローの作成が容易になり、業務負荷が大幅に下がったこと。グループITマネジメント室には30人が在籍しており、そのうちサービスデスクは6人で運用している。サービスデスクでは月に約1000件のインシデントに対応しており、従来は忙殺されがちだったが、効率化が進んだ今は、新たなITサービスの考案など、より本来的な業務にリソースを割けるようになったという。2つ目は、ITILベースでの運用の標準化・自動化の取り組みを推進できたこと。「以前のシステムは“人が頑張るシステム”でした。申請の受け付けから割り振り、対応までに人が介在することが多く、作業ミスや作業遅れが発生しやすい状況でした。
mPLAT/SMPの導入でそれがなくなり、標準的なワークフローに沿った確実かつ効率的な運用が可能になりました」(増田氏)
3つ目は、リードタイムの短縮や申請状況の可視化などによって、実際に従業員の満足度が向上したことだ。グループ企業からの問い合わせで、「mPLAT/SMPを自社固有のサービス管理システムとして使いたい」といった要望も寄せられた。NRIからは継続的に提案やサポートを受けているが、導入後の手応えを受けて「今後もIT部門の変革への伴走を期待している」という。
「テレワークや業務のデジタル化などに取り組んでいますが、まだまだ紙ベースで運用している業務は多くあります。mPLAT/SMPというプラットフォームをリログループ全体の案件管理などに拡大しつつ、新しい時代に即したIT運用の在り方を実現していくつもりです」(河野氏)
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